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広島高等裁判所松江支部 昭和25年(う)41号 判決

被告人

金山金太郞こと

金海亀

外三名

主文

本件控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

弁護人原良男の控訴趣意第一点について。

原判決が被告人に対し論旨摘録の如き犯罪事実を認定していることは所論のとおりであつて、この事実と原判決の掲記する被告人に対する罰條とを対照すれば原判決は被告人に対し登録証明書不携帶と呈示拒否の二個の事実を認めこれを外國人登録令第十三條第五號違反の包括一罪として処断していることが明らかである。ところで外國人登録令第十條によれば同令の適用を受ける外國人は常に登録証明書を携帶し所定の官公吏の請求があるときはこれを呈示すべき義務を科せられているから、外國人がこの義務に違反して登録証明書を携帶しないで所定の官公吏の講求があるにかかわらずこれを呈示できなかつたときは同令第十條の規定に違反して登録証明書を携帶せず且つその呈示を拒否したものとして同令第十三條第五號を包括的に適用して処断するを相當とする。もつとも登録証明書を携帶しない罪は昭和二十四年十二月三日政令第三百八十一號(昭和二十五年一月十六日施行)により新設されたものであることは所論のとおりであるけれども、右政令による改正前の旧外國人登録令のもとにおいても、登録証明書を携帶しないため所定の官公吏の請求に対しこれを呈示することができなかつた者は旧令第十二條第六號による呈示拒否罪に該當するものとして処断していたのでありこの解釈は同罪が外國人登録令第十條の義務違反を本質とするものであることに鑑み正當なものであつたが、文理に反することを理由とする異説があつたので疑問の余地なからしめるため新令第十三條第五號において呈示拒否罪の外に登録証明書を携帶しない行爲を新たに処罰するに至つたのである。さればこの改正を理由として呈示拒否罪に対する從來の解釈を改め、登録証明書を携帶しながらその呈示を拒む場合に限定して同罪の成立を認める理由はない。仮に以上の解釈が正當でなく、原判決が登録証明書を携帶しない罪の外に呈示拒否罪の成立を認め新令第十三條第五號前段の外に同號後段をも併せ適用したことが所論の如く違法であるとするも、右の違法は包括一罪の一個に関し、しかも同號前段の携帶しない罪も同號後段の呈示拒否罪も同一法條に規定され且つ同一の刑を以て処断されるのであるから同號後段を適用するとしないとにより結果を異にせず結局被告人の利害に影響するところがなく、從つてかような原判決の瑕疵は原判決破棄の理由とするに足らない。論旨は理由がない。

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